「なーなー、ちゃんって彼氏いんの?」






そんな黒木の言葉に思わずページを捲る手が止まった。









「別にいないけど・・・・」




そんな言葉に安堵の息を洩らすなんて。

どこの三文小説だ、俺。








恋符牒












あの後マネージャーの手伝いをさせられていたらしいは練習が終わってからやっと部室に顔を出した。

手に洗濯物らしきものを大量に抱えている。

慌ててセナがそれを受け取ってバカ丁寧に礼を言うと、空いてる席にようやく腰を下ろした。






「おー、疲れてんなぁ」

「誰のせいだと思ってんのよ、バカ猿。明日絶対ぶっ殺す」

「ごめんね、さん。随分暗くなっちゃったけど大丈夫?家はどの辺?」




マネージャーが心配そうに聞いてる。夜八時。

まー、最近痴漢出るっつー噂だしな。





「あー、白沼町の辺りです」

「マジ!?つか俺ん家近くじゃん!じゃー俺、送ってく!な、十文字!」

「まぁ、いいけどよ」



黒木のバカが勢い良く手を上げて言った。

あー、だから同中おなちゅうだっつの。地域一緒で当然だろ。




「白沼町のどこだ?」

「4丁目です」

「それって戸叶ん家の実家と近くね?」



黒木が振り返って俺を見た。ハイハイ、そうですよ。その通り。

もっと早く気づけ。ジャンプなんてとっくに読む気失くしちまった。





「・・・・もしかしてお前、俺らと同中か?」

「・・・・・はい」

「ハァアア??マジ!?」



黒木がなんでそれ先言わねぇんだよ、と騒ぎ出した。

セナやモン太も興味深げに聞き耳立ててる。



「あー、それで納得いったぜ」



騒ぐ黒木と反対に十文字はボリボリと頭を掻いた。

と黒木が十文字を見る。





「どうも猿やセナへの態度と俺達への態度が違うと思ったんだよ。
敬語だし大人しいっつーか。あんた、昔の俺ら知ってるからビビってたんだろ?
やけに戸叶も会話に入って来ねぇし。もしかして戸叶知ってたんじゃねぇのか」





そう言って十文字が三人から少し離れた場所に座っていた俺を見た。

まぁ、そいつの態度がオカシイのはそれだけじゃねぇけどな。



「・・・・・まぁな」




まさか幼馴染だとは言えず、とりあえず相槌を打つ。

と一瞬だけ目が合った。が、お互いすぐに逸らす。

つか別に元カノってわけじゃねぇのに何でこんなに気まずいんだ?

俺が気まずいのはとにかく、なんであいつまで気まずそうにしてんだよ、畜生。




「あー、そっかー」



珍しく黒木が殊勝に相槌を打った。でもさ、と口を開く。



「俺らもう昔みたいには荒れてねぇーし、今はまースポーツマンみてぇな感じだし?
煙草も止めてっし、ちゃんをビビらすような事してねぇからさ。
あんまビビんないでくれる?少なくとも俺はちゃんが好きだし」

「何、どさくさ紛れに告ってんだバカ」

「うっせーよ!」



苦笑紛れに突っ込んだ十文字に黒木が怒鳴る。




ああ、本当に。時々お前の馬鹿さ加減が羨ましいよ、黒木。

俺にはそんな事出来ないね。

自分のキモチ、正直に言うなんて。





「うん・・・・じゃあ、よろしく黒木」



が照れくさそうに笑いながら言った。

敬語も敬称も使わずに、黒木を呼んで。



「ま、適当によろしくやってくれ。」

「うん、よろしく十文字」



十文字がの頭をポン、と撫でる。

猿が「友情MAX!」と叫び出して、セナも声を上げて笑ってる。
蛭魔がいつものように機関銃を撃って、悪魔の雄たけびを上げた。




「YA−HA−!!そこの糞女!サブマネ決定な!!」

「は?サブマネって・・・サブマネージャー?」

「アメフト部とよろしくやってくれんだろ!」

「だ、誰もアメフト部となんて言ってませんってば!!」

「ごちゃごちゃ煩ぇ、美術部幽霊部員!!どうせ暇なんだろうが!」

「なんでそんなこと知ってるんですか!ちょっ、なんとか言ってよ、黒木!十文字!」

「いいーじゃん、やれって!一緒にクリスマスボウル目指そうぜ!」

「まぁ・・・・諦めてアメフト部入れ」

「そんな〜〜〜」







この分では後五分もしない内にはアメフト部入部を余儀なくされるだろう。

部の掛け持ちも禁止されていないし、退部しろって言ってるわけでもない。






十文字や黒木や他の連中に囲まれて楽しそうに笑うは。






もう俺の知っている泣き虫で俺の後を懸命に追いかけて来たじゃなかった。













それがなんでこんなにムカつくんだ、畜生。














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