うっかり早起きしちまって、いつもより随分早く家を出た。

グランドに珍しく栗田や小結の姿が見えない。どうやら一番乗りのようだ。




鍵開いてんのか、と部室のドアを開いて後悔した。




・・・・・・そうだ、今日からこいつがいたんだ。









恋符牒


















私がアメフト部のサブマネージャーをすることになって一日経った。

あの日はあの後、姉崎さんと小早川君と一緒に帰った。

黒木が文句言ってたけど、部活のことやアメフトの事色々聞きたいことがあったし。

何よりあの二人と一緒に帰るってことは当然戸叶もセットなわけだし?






今更どう接したらいいかなんて分からない。








今朝はいつもよりかなり早く家を出てきた。

朝練の前に、教えてもらわなきゃならない事が色々あるからって姉崎さんと約束をして、ヒル魔さんから部室の鍵を預かったから。

現在六時半ちょっと前。いつもならまだ蒲団の中だ。






慣れない部室の中で姉崎さんが来るのを待つ。

朝練自体は七時からだから、部員達が来るにはまだ間があるだろう。

ドアが開く気配がして私はてっきり姉崎さんかと思って腰を上げた。

そしたら、









「・・・・・か」

「庄三・・・・・」









呟くように呼ばれたなまえに、少し肩が揺れた。






「おはよ」

「おう」






戸叶が部室に入って、私の向かいの席に腰を下ろした。

手には真新しいジャンプ。それを膝の上で開く。







チクタク、と普段なら聞こえるはずの無い壁の時計が妙に煩く聞こえる。

約束の六時半になっても一向に姉崎さんは現れる気配はなく、部室は静かなままだ。

することもなくて、携帯を開くとディスプレイにメール受信のアイコン。

慌てて開くとそれは予想通り姉崎さんからだった。






『ごめんなさい、少し遅れます』







「まーじー・・・」





そのおかげで私は戸叶と二人っきりですかい!

思わず出た言葉に戸叶が顔を上げた。





「なんだ」

「は!?何が!?」





呟いた独り言にまさか言葉が返って来るとは思わなくて、過剰反応してしまった。

けれどそんな私に表情を変える事無く、戸叶が私の携帯に視線を移す。

彼の意図を察して、とりあえず携帯を閉じた。




「姉崎さんと六時半に約束してたけど、ちょっと遅れるって・・・」

「ああ、それでお前こんなに早いのか」

「うん、まぁ。庄三はなんで?」

「別に。偶々だ」

「そう・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」









ぺらりとページの擦れる音がした。

視線が漫画に戻って、また沈黙が下りる。

時計の針は進んでいるはずなのに、誰も来る気配がない。








「お前」

「はい!?」

「俺とはよろしくしねーのか」

「は?何の話??」




突然の言葉に心臓が飛び跳ねそうになった。

どうしてそう、心臓に悪い話しかけ方しか出来ないのか。

顔を見ても、戸叶はこっちを見る気配はない。

漫画のページがまた捲られる。







「昨日」

「きのー?」




その単語に『昨日』を思い出す。

もしかして・・・・黒木や十文字と「よろしく」したこと?







「・・・・・・・・して欲しいの?」

「別に」

「じゃあ何さ」

「さぁな」

「はぁああ??」

「お前、俺らの口癖移ってんぞ」

「あんた達の口癖なんて知らないわよ!!」









「ど、どうしたの、2人とも」








思わず出してしまった大声と同時にドアが開いてそこには雪光さんが立っていた。

見るからに重そうな鞄を両腕で抱え、呆然と立っている。







「あ、お早うございます、雪光さん」

「うん、お早う。で、どうしたの?」

「いいえ、別に」

「そう?じゃあとりあえず僕着替えてくるけど・・・」




そう言って雪光さんが戸叶を見ると、彼も腰を上げてロッカールームに入っていった。

後ろ手でカーテンが閉められて、一人きりになる。









「なんなの、アイツ・・・・・」







その呟きに答えてくれる者はいるはずもなかった。