ユニフォームが破れているのをマネージャーに指摘されて、

縫う、と言って聞かない彼女にそれを預け、

仕方なくジャンプを読んでいたら、懐かしい声が聞こえた気がした。






慌てて部室のドアを開けたら、誰もいなかったなんて我ながら間抜けだ。








恋符牒












ガキの頃、よく俺の後ろをついてくる女がいた。

泣き虫でいつもオドオドしていて、俺の服を後ろから握り締めては安堵の溜息をつく。

方向音痴でよく迷子になっては探し回るのが俺の役目だったような気がする。

けれどそれも中学に上がれば自然とお役御免になった。





男と女なんていつまでも一緒なわけねぇし、俺はすぐに黒木と意気投合した。

その内十文字が加わっていつの間にか札付きの不良っつーレッテル。

実際絡まれやすい十文字(目立つから)絡みやすい黒木(すぐキレるしな)と

行動を共にしていれば、喧嘩の数も自然と増えた。





そうなればもう、周りはあっという間に俺達を敬遠して。

クズだのカスだの言われて俺達はますます荒れた。











が、いや――――が同じ高校だったのには驚いた。

どういう経緯だったは知らないが、ま、滑り止めにきちまった。そんなところだろう。

クラスが隣でも顔を合わせる事もなかった。――――今日までは。









屋上への闖入者がだと気付いたのは猿との会話を聞いた時だ。

それまでは顔なんざ上げるのも面倒でジャンプを読み耽っていた。

懐かしい声に、けれどあの頃とは違う強気な声に顔を上げる事が出来なかった。

それに意味はない。

ただ、気まずかった。








『これお礼な!』







そう気軽に言える黒木を初めて羨ましいと思った。

こいつなら例え数年ぶりの幼馴染でも昔と同じように接することが出来るんだろう。

今更昔のように接したいとは思わない。

それでも妙に胸がすっきりしないのは、罪悪感があるからか。





煙草で職員室へ呼ばれた時。

三人一緒に退学になりそうだった時。

教師相手に暴れた時。





物言いたげな視線に気付いてなかったわけじゃない。

けれど説教なんざ御免だった。

カッコ悪い姿なんざ見せたくなかった。

ガキなりの、意地と見栄。





それが俺達の溝を更に広げた。
















「はい、出来たよ戸叶君」

「どうも」


見事に綺麗に縫われたユニフォームを受け取り、少しばかり頭を下げる。


「さ、早く行かなきゃね」

「っす」

「じゃあ先に行ってるね」


まるでセナに言うように優しく笑う。

俺が一番苦手なのは実はこの人だ。

ガキ扱いなのは気に入らない、それなのに逆らえない。

全く悪意のない人間に俺達は慣れていない。







「おー、やってんな」





既にランニングが始まっている。

マネージャーが蛭魔に言ってくれてるはずだから怒鳴られることはないが、いつ銃声が聞こえてくるかもわからない。

タオルが用意されているベンチにジャンプを放り投げる。






「戸叶ー!遅ぇって!!」

「ああ、ワリィ」

「何やってたんだ?」

「ちょっとな」





説明するのも面倒くさくて、適当に返事を返してランニングの列に入る。

練習が始まればバカな会話も減って、しばらくは練習に没頭した。












「おーし!糞野郎共!久々に40ヤードタイム計んぞ!!」

「おー!タイムMAX!!」

「じゃあ一人ずつタイム計るから、なまえ呼んだら位置についてね。最初は―――」

「アイシールド21だ!!」

「うわ、は、はい!!」





景気付けに蛭魔が発砲して、セナが位置に付く。

もう一度銃声がして、セナが走り出すと誰もが押し黙った。



何度見ても、慣れる事のない光速の足。





「おー、速さMAX!!」

「フゴ!」

「おーい、ー!ちゃんと見てたかー!」

「は?」





猿が急に手を振り出して、思わず振り返ってしまった。

そこには階段に座り込んで手を振る

便乗して黒木まで手を振り出してる。なんでいる?






「あー?おい、糞猿、知り合いか?」

「クラスメイトっす!」

「ほー。丁度労働力が足りなかったところだ。呼んで来い」

「ウキ!?」

「さっさと呼んで来いっつってんだよ、YA−HA−!!」

「行って来ます!!」








おいおい、まさか。

手伝わせる気か?






・・・・・・・・・・・勘弁してくれ。








今更どうしていいかなんて分からない。