知らなければ良かったと思う。




楕円形のボールを追う姿も

真っ直ぐゴールを目指す眼差しも。





フィールドには知らない貴方がいた。







恋符牒














今日も泥門高校の校庭には朝早くからアメフト部の姿が見えた。

掛け声と共にガタン、ガスン、と大きな音がする。

ライン組が組み合いをしているのが教室の窓から見える。







「熱血・・・・・・」







いつの間にそうなったのか。

気付いたらそうなっていた。

不良という看板を掲げたスポーツマン。

彼らから煙草の匂いはもうしない。








始業五分前のチャイムが鳴る。

わらわらと解散するアメフト部の面々。

もうすぐやかましくアメフト部の猿が帰って来るだろう。

彼らと同じラインマンの小結を伴って。







「うお〜〜〜腹減ったぁ!!」

「フゴッ!!」





予想通りこのクラスのアメフト部の二人が帰ってきた。

廊下もまだ騒がしい。

あの三人と主務の子が騒いでいるのだろう。

その喧騒の中に懐かしい声を聞く。








三兄弟(とアメフト部では呼ばれているらしい)の一人、

戸叶庄三は小学校の頃からの所謂幼馴染だ。

その頃から本の虫であまり言葉数の少ない戸叶だったが、

的確な判断力と子供らしからぬ視野の持ち主でクラス内でも一目置かれていた。

彼の性格上決して前に出て行くようなことはなかったけれど、

何かと頼りにされる人間――――それが戸叶だった。





幼馴染と言っても彼と遊んだ記憶はほとんどない。

まるでどこぞの書痴のように片時も本を離さずにいたから。

一緒に公園へ行っても日陰で漫画なり図鑑なりを読んでいて、

それでも周りの友達が何か危ないことをし始めると、静かな声で制止を掛けるのだった。








私は―――――彼が好きだったのだと思う。

誰よりも大人びた戸叶はクラスの中でもやはり人気があった。

それに洩れず、私の初恋もまた彼だった。

だが当時はそれを自覚することもなく、今になって思えば、である。







戸叶が変わったのは中学に入ってから。

一年で黒木と知り合い、二年で十文字と三人でつるむ様になり。

彼らはあっという間に札付きの不良というレッテルを貼られた。

三年になってから髪も染め、サングラスをかけ全く知らない人物になっていた。

それでも本は手放さないようだけど。







元々暴力的なことは好まない戸叶だったから喧嘩ばかりしていると聞いた時は驚いた。

変わってしまったのだと思ってショックだった。

けれど気付く。






三人一緒に煙草を吸って、喧嘩をして、馬鹿話をして。

あの頃は決して遊びの輪に入ってこなかったのに。


本を手放さなくても、話しかけられれば顔を上げて。

あの頃は返事すらまともにしてはくれなかったのに。




ああ、誰一人。

誰一人として過去の友人に戸叶の求める人物はいなかったのだ。

後ろで見守っていたのではなく、ただ見放していただけなのかもしれない。



彼の中では誰一人として友人と認める者はいなかったのだ。







――――――――私も含めて全ての人間が彼にとって取るに足らないものだった。









この事実を知った時、私は同時に自分の想いも自覚した。

丁度高校受験の頃、机の上で問題集と向き合いながら気付いてしまった事実。





そして――――なんの悪戯か第一志望で不合格、学校見学すら行かなかった滑り止め合格した高校に。









彼は居た。あの二人と共に。









中学時代からもう言葉すら交わさなくなった彼が二度目の変化と遂げたと知ったのは、夏休みが明けた頃だった。