たった一晩寝たフリしただけで、忘れられる想いなら最初から バイバイ。新聞配達員のバイクの排気音が聞こえる。 時計の針は四時二十分。 全く寝てねぇはずなのに、眠くない。 酔いはとっくに醒めてる。あんなこと言われて酔えるわけがない。 『する必要あるか?』 女の存在を、まるで隠そうとしないトガ。 当たり前だ。俺達は親友で、性別って時点で恋愛対象外。 隠そうとする方がおかしい。 トガは正しい。 オカシイのは俺なんだから。 腹の上に乗っかってるタオルケットから這い出る。 隣で丸くなってるトガはまだ起きる気配はない。 悪戯にちょっと触ってみようかと思ったけど止めた。 辛くなるだけだ。 携帯を開く。電話の着信が一件・メールが一件。 予想通り電話は十文字からで、メールはセナからだった。 受信ボックスを開く。 『明日の朝練遅刻しないでね』 たった一言、それだけ。 セナにも随分心配掛けたみたいだ。 けど、ごめん。今日は行けそうにない。 忍び足でトガの横を擦り抜ける。 ふと、畳に投げ出されたトガの携帯が目に付いた。 それを拾って、電話張を開く。 トガの携帯を無断で触った事なんて今まで一度もない。 外がだんだん騒がしくなってきた。 携帯を元の場所に置いて、そっと玄関の鍵を開けた。 振り返る。未練たらしい。けど振り向かずにいられない。 「バイバイ、トガ」 たった一晩寝たフリしただけで、忘れられる想いなら最初から 抱きはしないのに。 目が覚めた。 いつも通り汚いアパートで目覚める。 頭が徐々に覚醒して、反射的に隣を見た。 「どこいった」 時計は六時。朝練行くにはまだ早い。 何より酔っ払いの遅刻魔が、俺より早く起きるなんざ在り得ない。 玄関のドアノブを捻る。鍵が、開いてる。 足元に落ちていた携帯を拾い上げ、短縮一番を押した。 「――――――――?」 掛からない。呼び出し音すら鳴らない。 携帯のディスプレイを見る。 「ハ?」 無い。短縮1番が消去されてる。 それだけじゃない。 『黒木浩二』 親友の名前は、 俺の携帯から抹消されていた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー あんなアニメにめげてたまるか。 |