黒木がいなくなったことを告げると、十文字にバカ野郎と怒鳴られた。




「俺がなにした」


「何もしなかったからだろ!」






結局一番の間抜けは俺ってことか。









一番大切なモノ












黒木が行きそうな所はいくつか心当りがあった。

バカだからどうせお決まりのコースの何処かにいるだろ、といつもなら思うところだが今日はそれじゃ済まされない。

一つ一つ廻って行ってもすれ違う可能性の方が圧倒的に高い。

会ってどうするつもりかも考えず、たった一つの場所を思い浮かべた。








あそこには必ず来ると。









それは通っていた中学からさほど離れていない空き地だった。

家へ帰りたがらない十文字と、どうでもいい俺と、付き合いの良い黒木がよく溜まっていた場所。

サボりとなると大抵ココで、いつのまにか持ち込んだ木箱や汚れた灰皿が居心地がよく、高校に上がってからも時々顔を出していた。









「三ヶ月ぶりか・・・・・」






人の足が無くなると、こうも荒れるもんなのか。

元々生えていた雑草は更に背丈を伸ばしていた。

最初の頃に比べると明らかに荒廃してしまった木箱。

腰を下ろせば頼りなくギシリと音を立てる。







時間はまだ朝の九時で、慌てて来たもんだからメシも食ってない。

部活がどうのなんて既に頭に無く、十文字が適当に言い訳してくれるだろうと腹を括った。

思い出されるのは黒木の昨夜の言葉。







「笑えない、か」








今思えば、それは俺のせいなんだろう。

違う、気付いてた。本当は、どうして黒木があんな事を言ったのか。








『する必要あるか?』







分かっていても尚、突き放したのは。

足元に溢れ出した赤色の泥沼に浸ることを畏れたからか。

正直今でも戸惑いはある。

黒木を受け入れることは、他の全てを拒絶することと同義なのだと。






倫理も道徳も世間体も何もかも捨てるのは容易じゃない。








「タチ悪ィな」









昔、そういうものを振りかざす大人が大嫌いだったはずなのに。

今、それに縋り付こうとする自分がいる。







ただ、そんな自分の足元に縋り付いているものは。

いつも当たり前に傍にあった、あの、








黒木の笑う顔なのだという事も、痛いほど良く解っていて。












サングラスを外して直接朝日を拝む。

いつから。いつから世界を畏れるようになったのだろう。

いつからガラス一枚隔てなければ、世界を直視出来ないようになったのか。








黒木を直視してしまえば、人道を外れる道を選ぶ事を本能的に知っていたからなのか。












けれどそれでも良いと、アイツが笑える為ならそれでもいいと思っている自分がいて。












サングラスを掛け直す。

再び世界は単色になっちまった。


だから早く来いよ、黒木。

バカみたいに笑って、もう一度俺の世界に色をぶちまけろ。











俺はそれを、ジャンプ片手に見ててやるから。












いつだって、俺の世界を変えるのはお前なんだ。












足音が聞こえて、咄嗟に草陰に隠れた。

見慣れた黒髪が近づいてくる。











最初になんて言えば、この先お前を逃がさずに済むだろう。