女のヒステリックな声が聞こえる。

煩ェな、黙ってろ。

適当に相槌打って、唇を塞ぐ。






「あんたが黒い髪好きだって言ったから染め直したのよ」






恩着せがましい。別に黒い髪が好きなわけじゃねぇよ。






ただアイツと同じ髪の色(それでもアイツと似ても似つかない手触りの髪)に

指を通して、抱いた気になってるだけ。








欲しいモンを欲しがらないのが俺の悪い癖。

















恋愛になんて興味はない。

正確に言えば、政治だって勉強だって芸能だって世の中のもんにはなんの興味もない。

頑張ったところでたかが知れてるし、掴めねぇもんは多い。

ただ、だらだらと落ちていくのは楽だ。

いつも読んでる本は単なる暇つぶし。







そんでも黒木とつるむようになって、十文字がそれに加わって。

モノクロだった世界が少しだけ色をつけた。

丁度このサングラスのような、一色だけの世界。







だけど日が経つにつれ、世界の色は段々増えていった。


十文字が無理矢理俺の世界に絵の具をぶちまけて、黒木がそれを笑いながら塗りたくる。

俺はそれでもいいか、と本片手に傍観する。


みるみる内に世界は正常。

ケンカばかりの日々がいつの間にかアメフト漬けの毎日。







俺一人じゃ1+1さえ0だったけど、

あいつらと一緒なら10にも100にもなるって最近分かった。












だからこそ失うことが怖くてまたモノクロの世界に戻るのが嫌で。












もういつだったか、自分の中にあるもんに気付いて。

ああ、俺の世界に赤色の絵の具を塗りたくったのはあいつで。

その赤色がだんだんと陣地を伸ばす事を俺は恐れて。











なんとか正常の色に戻したくて、世界が今度は赤一色になるのを止めたくて。







だから女を抱いた。
(アイツに似た女を選んでいるなんて気付かずに)







だけど止まらない。

止まらないんだよ、お前が俺に笑い掛けるたび



どんどんどんどんどんどんどんどん




ああ、勘弁してくれ、どうなるってんだ、俺にどうしろと











『お前ってさ、好きなやつとかいんの? 』











そんなこと聞いてどうするんだ、十文字。

どうなるもんでもねぇだろ、俺らはお前らみたいにはいかない。





俺はお前らとずっと一緒にいるつもりでいるよ。
(だから諦めたんだよ、愛に永遠なんてねぇから)

ケンカしてアメフトやって仲間同士で笑って。
(それならずっと傍にいられるだろ、安い漫画の請け売りだけど)

愛だの恋だの囁いた所でロクなことねぇ。
(今抱いてる女がいい証拠)

だから平気で嘘を付いた。
(俺なんかを信じんなよ、十文字)















女の喘ぎ声が耳障りに響く。

身体は正直で何も感じてなくても出るもんは出る。

最低?解かってんだよ、でも悪いな関係ねぇ。

世の中そんなもんだよ、諦めろ。



























諦めろよ、そうすれば









世界は色を取り戻す