黒木がいなくなったことを告げると、十文字にバカ野郎と怒鳴られた。





「俺が何した」

「何もしなかったからだろ!」




その言葉に、無意識に足が動く。




見つける自信はあった。











お願い、どうか














部活サボって、ぼぅっとしてしていた。

時計の針は三時過ぎ。いつの間にそんなに経ったのかわからない。

何処でどうしてたのかも覚えてない。

ただ、途中でどっかの高校の連中に絡まれて、ボコボコにしたのはついさっきの話。




腹の虫が鳴る。

こんな時でさえ、腹は減る。

さっきボコった連中から巻き上げた金で肉まんを買った。

カツアゲなんてしたの久しぶりだ。


無意識に三つ買ったことに笑いが出る。

俺と十文字の肉まんと、トガのピザまん。






さて何処で食おうか。

泥だらけの制服のままじゃ、まっ昼間の公園なんてとても入れない。

何も考えず、コンビニの袋をぶら下げながら街中を歩く。

何も考えていないはずなのに、気付けば足は行き慣れた場所へ向かっていた。







辿り着いたのは立ち入り禁止の札が付いた空き地。

もう随分前に取り壊されたビルの跡地は未だ買い手のつかないまま、放置されていた。

中学の時俺が見つけて、それ以来溜まり場になってた場所。





「おっ、あった」





空き地の隅に置かれた木箱が三つ。

行儀悪く並んでる。俺らの象徴みたい。

その一つに腰掛けて、袋を漁る。まだ冷めてない。

適当に取った一つに噛り付く。つか、これ、






「ピザまんじゃん・・・・・」





白いパン生地から出てきたのはオレンジ色のチーズとクリーム。

恨めしげにそれをじっと見る。





「おい、それ俺んだろ」

「ハァア?つか金払え、ってぇええトガ!?」






手の中のピザまんが見慣れた手に攫われた。

なんで?なんでいんだよ?





「な、トガ、なんで、い、いつから!?」

「落ち着け。朝からだ」

「ハァアア?朝?朝からここにいたのか!?」

「お前ェの事だから何処に行きゃいいのか分からねぇで、その辺ウロウロして最終的にここに来ると思って張ってたんだよ」




事も無げにそう言ったトガはあっという間にピザまんを平らげ、もう一つ寄越せと袋を漁る。




「刑事かよ・・・・って、だからそれ俺の肉まん!!」

「もう一つあんじゃねぇか。手間掛けさせやがって。お前今度からGPS携帯持たせっからな」

「ハァアア?絶対ェイヤ。つか何しに来たんだよ!」





トガから肉まんを死守しながら、思い切りガン付けた。

やれやれ、と溜息を付くトガに余計腹が立つ。




「一応聞いてやろうと思ってな」

「・・・・・・・何を」

「お前の要望。言ってみろ」

「聞いて、どうすんだよ」

「さぁな。とにかく言ってみろ」






しばし睨み合う。ヤバイ、マジデスヨ・コノ人。

上等だ。そこまで聞きてぇなら言ってやろうじゃねぇか。









「俺のこと好きになってよ」









「――――――――わかった」









ハ?ちょっと今なんて言ったこいつ。

俺がすっっげぇ勇気出して一世一代の台詞をあっさり肯定しなかったか?







「トガ、意味分かってる?」

「お前ほどバカじゃないつもりだからな」

「ハァアア!?なんだよそれ!!マジで意味わかってんのかよ!?」

「何度も言わせんな、分かってる」






再度洩れる溜息。肉まんなんかとっくに冷めてる。





「そいつの為ならなんでもしてやりてぇと思うのは恋じゃねぇのか」

「え?」

「俺はそう思ったってことだ。お前をここで待ってた間な。
勝手に人の携帯いじるんじゃねぇバカ」

「ば、バカバカ言うな!」

「ああ、分かった。帰んぞバカ」

「絶対ェ、トガに肉まんやんねぇ!つかピザまんの金払え!」

「バカの養育費にしちゃ安いもんだろ。今更潰れた肉まんなんかいらねーよ」

「あ”」

気が付けば袋ごと潰れてる肉まん。


「後で十文字でも食わせろ」

「ん、じゃあそーすっか」

「カッカッカ。ならさっさと帰んぞ。今ならまだ練習間に合うだろ」

「げっ!そういや俺、部活サボったんだ」

「俺もだ。お前のせいでな」

「俺のせいかよ!!」






一瞬このままフケようかと思ったら、それを見透かしたようにトガの手が俺の手を握った。





「ま、今日だけは一緒に怒られてやる」

「・・・・今日だけかよ」

「当たり前ェだ」






そう言って苦笑するトガに俺も笑って返す。




「今、笑ったな?」

「今?うん」

「ならいい」

「なんだよ」

「うるせー、さっさと帰ンぞ」








乱暴に引かれた手を放さないまま、俺達は空き地を後にした。

後に残されたは、何度も読み返されてボロボロになったジャンプが一つ。








バラバラと音を立てるそれはまるで拍手のようだった。











――――――お前が笑える為なら、何でもしてやる。













耳元で囁かれた言葉は、最高の告白。










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後書き
需要があるのかないのかさっぱりな戸黒連載。とりあえず終了です。
ボチボチ後日談とか戸叶・十文字視点とか書く予定です。
極少数と思われる戸黒同士様方へ。
少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。