バカバカしい日常の中で いつの間にか 当たり前のように ぬるりと俺を侵食していく想い。 ナイショ。「おい、黒木」 「――――うん」 「おい」 「――――うん」 「バカだろ、お前」 「――――うん、って違ぇよ!!」 ガバっと机から身体を引き離して抗議する。 自分の体温で温くなった机が少しだけ名残惜しい。 顔を上げた瞬間、やれやれと溜息をついた悪友はなんだか小難しい文庫本の角で俺の頭をこずいた。 「ちっとも話を聞いてないお前が悪い」 「ちょっとぼーっとしてただけだろうがよ!!」 「ああ、そう。ちょっとね」 そう言って目線をずらした先を一緒に見てしまうのは人間の習性らしいけど。 そこには思ったよりもとっくに進んでいた時計の針。 「うわ!!なんだよ、もう放課後じゃねぇか!!」 「ちょっとが聞いて呆れる」 「なんでもっと早く呼ばねぇんだよ!十文字は?」 「何度も呼んだだろ、バカ。とっくにセナと二人で部室」 「俺、やべぇ!!さっさと行かねぇとヒル魔に殺されるじゃん!」 「そうだな。お前だけな」 「フォローする気もねぇのかよ!!」 放課後の教室、人はまばら。 俺達はいわゆるスポーツマンではないけれど。 脅迫されて入ったはずのアメフトに何故かすっかり馴染んじまってる今日この頃。 仲間なんて甘ったりぃ言葉は苦手だけど。 それでも居心地イイ、あの場所に俺達は今日も向かう。 「くっそー。薄情な奴だな、十文字!」 「十文字をつき合わせたら、セナまで遅れるだろうが」 「あーっそうでしたー!」 親友の一人、十文字は今、アイシールド21こと小早川瀬那と付き合ってる。 気付いたらいつの間にかそういうコトになっていて。 トガなんかは言われなくても気付いてたらしくて、十文字が俺達にカミングアウトした時は俺ばっかアタフタしてた(ムカツク!) まぁあの二人はすげぇお似合いっつーか、むしろバカップル? 二人の関係を知った時、男同士だからって抵抗は特になかった。 だって俺が片想いしてんのも男だし? 「黒木、そこ階段」 「はぁあ?・・おわっ!!」 物思いに耽ってたら、目の前に階段。 突然無くなった床に足を滑らせて落ちるかと思ったら間一髪。 トガの腕が俺の首根っこ掴んで引き上げてくれた。 つかさ、 「トガ、苦しいっての!!」 「恩人に向かって言う事がそれか?」 「もっと優しい助け方があるだろ!」 「男を抱き上げるなんて御免だな」 「あーっそうデスネ」 こういう時、結構キツイ。 そりゃさ、まぁそうだと思うよ。 俺だって御免だよ。男と引っ付くなんざ普通はさ。 でもさ、俺はトガのコト好きなんだぜ? それがどうしてかなんて、もう理由も思い出せないくらい昔から。 「黒木、お前今日とリップしすぎ」 「べーつーにー」 「あっそ。ならとっとと行くぞ」 ああ、だからさ。 結構キツイんだぜ?お前の横で親友ヅラしてるのはさ。 幸せの手本ってヤツがすぐ傍にいるから尚更(あのバカップル!) 「トガー」 「あ?」 「呼んでみただけー」 「・・・・・・・沈めるか」 「ぎゃーー、冗談だっつの!」 キツイから。お前の横でなんでもない顔してんのはツライから。 だからさ、俺はいっつも笑ってるよ。 勘のするどいお前に気付かれないように。 妙なところで気を遣う親友とその恋人に心配かけないように。 だからさ、トガ。 絶対このキモチは秘密にするから。 傍にいてもいいだろ? な?トガ。 |