授業が始まって十分が経った頃、疲れた顔をしてようやく雷門が帰ってきた。 冷やかすクラスメイトに「うるせー」と怒鳴る。 当然の如く国語教諭に怒られて、雷門が渋々席に付いた。 教室の窓から見る空は、嫌味なくらい青い。 恋符牒「、サンキューな」 授業中、凝りもせず雷門が話し掛けてきた。 一応小さな声で気を遣っているが、教師から見ればモロばれだと思う。 「それはいいけど、長かったわね」 「もーしつこさMAX!ま、おかげで補習は免れたけどな」 「あ、そう。まぁせいぜい感謝してよね」 「おー。あ、お前今日の練習見に来いよ!」 「はぁ?なんでそうなるのよ」 「お前だけなんだぜ?うちのクラスで試合の応援来ないの。 だから見に来いよ!俺のスーパーキャッチを見せてやるぜ!!」 「ば、声が大きい!」 「そこ!うるさいぞ!!」 怒った教師がまるでドラマのようにチョークを雷門に向かって投げたが それは楽々雷門にキャッチされた。 教室から歓声が上がる。 が、それは教師の怒りを煽るだけだということに猿は気付いていない。 「雷門!お前、この問題解いてみろ」 「ウキーー!?」 「バカ」 こうして雷門はこの時間中、問題を解く羽目になった。 放課後になって一人で昇降口に出る。 友人のほとんどは部活だ。 私は美術部の幽霊部員で放課後はいつも真っ直ぐ帰っている。 部活に精を出している生徒達を横目で見ながら歩いていると、妙に派手なある一角から呼び声が聞こえた。 「ーーー!練習見ていけって!」 「はぁ?いいわよ別にって、え?」 大声でなまえを呼ばれて顔を顰めていると、急に手を引っ張られた。 驚いて下を見ると、小結が私の右手を掴んでいる。 「はぁ?こら、小結!」 「フゴ!フゴゴ!!」 「練習見ていけっての?嫌だってば!」 「フゴ!!」 嫌だと言う私に首を横に振って、再び引っ張られる。 すごい力で引かれ、抵抗する間もなくアメフト部の部室の前まで連れて行かれた。 雷門は「でかした!」と小結とハイタッチを交わしている。 「あんた達ねぇ・・・」 「まーまー怒んなって!もうすぐアイシールド21も出てくるからよ!」 「ああ、例の・・・」 「そ!あいつの走りはマジすげんだぜぇ!クラスで見てないのお前だけだからな!」 「ハイハイ、わかりました。じゃあアイシールドだけ見てくわよ」 「よっしゃ!!」 「フゴゴ!!」 再びハイタッチを交わす二人。 何がそんなに嬉しいのかさっぱりわからない。 「おい、猿!そろそろ練習始まんぞ」 そこにガラ、と音がして部室からユニフォーム姿の十文字が顔を出した。 続けて黒木も顔を出す。まずい、このままじゃ戸叶も出てくる。 「じゃあ私校庭に行ってるから」 「おー!」 「あれ?昼間の子じゃね?ちゃんだっけ?」 早く部室の前から去りたいと思っていたのに、タイミング悪く黒木に話しかけられた。 「ああ、そういえば」 十文字が相槌を打つ。 「焼きそばパン食った?練習見に来たの?」 人懐こそうな笑顔を浮かべて黒木が喋る。 本当に・・・・変わった。 クラスが一緒になったことがないから二人は私が同じ中学だったことは気付いていないんだろう。 けれど私はこの二人の荒んでいた頃を知っている。目つきがまるで別人。 「練習行かなくていいの?」 「お、そうだよ!やべぇ、急ごうぜ!」 「そういや戸叶は?」 「おーなんかマネージャーと奥で話してたぜ」 突然聞こえたなまえにびくりと肩が震えた。 「じゃー!しっかり見てけよー!」 雷門の言葉を最後に皆が校庭へ駆けていく。 「なぁ・・・・ってどっかで見たことねーか?」 「ちゃん?あー、十文字その手古いぜー!」 「バカ!そんなじゃねーよ!!」 「あーやだねー十文字、ヌケガケは許しませんよ!!」 「・・・・・誰の真似だよ」 やがて校庭から掛け声が聞こえた。 ランニングでもしてるんだろう。 なるべく部室から離れた日陰の場所を探す。 体育館への階段が丁度良くて、そこに座った。 走ってもいないのに心臓がドキドキする。 もしかしたら自分のなまえすら覚えていないかもしれないような男の為に 動揺している自分に酷く嫌気が差した。 「忘れさせてよ・・・・・もう・・・・」 膝を抱えて小さな子供のように少しだけ泣いた。 |