静かな寝息が聞こえる。

外は嵐。






まるで世界に君と二人きり。











雨の檻









「寝てていいよ」




そう言ったのは百介自身だった。

眠そうに目を擦って百介の横で座っていた

本当は買い物に出かけようと言っていたけれど外は生憎の嵐。

諦めざるをえなくて結局いつも通り百介は本の虫になっていた。

だから寝てもいいと言ったけど。





「本当に寝ちゃうんだからなぁ・・・・」





肩に寄りかかった身体。

自分とは違う温もりと静かな吐息。

激しい雨音がまるで遠く聞こえる。






「どうしよう」






どうにも集中出来なくて本を閉じる。

この有様を見たら又市一味は大笑いするに違いない。

色恋沙汰は徹底的に苦手なのだ。特にこの幼馴染が相手なら尚更。









「よく聞くけどなぁ・・・こんな話」





焦がれている相手が自分の肩に寄りかかっている。

そんなシチュエーションは珍しくないんだろうけど、やっぱり自分の身に降りかかると別なわけで。






口付けしたら怒られるだろうな、と当たり前の事を思う。

自分に物語の主人公のような度胸はない。

せいぜい彼女を起こさないようにするのが関の山だ。








そういえば、と前に言われたことを思い出す。



『たまには花より私に見惚れなさい』



あれは自惚れいいということなのだろうか。

も自分を思っていてくれていると思っていいのだろうか。



例えばここで口付けしたとしても、彼女は怒らないでいてくれるだろうか。




彼女を抱きたい。

今でもそう思っている。

ただの幼馴染だった女の子がいつの間にか女性になっていた。




ああ、それこそ。ありきたりな物語だ。

この手のお決まりのラストはどうだっただろう。

二人は結ばれるのだろうか?それとも男の想いは報われない?



どちらにしろ想いを告げる勇気はない。










「ん・・・百介・・・・・?」







うっすらと自分の名を呼びながら彼女が目を開けた。

やましい想いを見抜かれたようでどきりと心臓が跳ねる。




「・・・・寝よ・・・?」




寝ぼけているのだろう、それはもう無防備に微笑みながらまた眠りにつくに頬を染めずにはいられない。

ああ、どうして神はこのような試練を私に与えるのだろうか。









外は嵐。





まるで世界に君と二人きり。





おそるおそる唇を寄せて。

前髪から覗いた額にそっと口付けをする。





唇に触れる勇気はまだないから。








雨が。

雨が降っている。

全ての音を掻き消すように雨が。










もし本当に世界に君と二人きりなら例え君が嫌がっていてもこの手に抱くのに。






こんな恐ろしいことを考えていると、いつか私も妖怪になってしまうかもしれない。


自分のことしか考えられない浅ましい妖怪。


そしていつか又市一味に御行されてしまうのかもしれない。









愛しい君をこの手に抱けるのならそれでも。









・・・・・・」








病にかかった。

それは呪いにも似た恋の。














外は嵐。





まるで世界に君と二人きり。






愛しい君をこの手に抱いて、まるで牢獄のようだと思う。






早く雨が止めばいい――――――――






私が妖怪になる前に。














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39000HIT結城様のリクほのぼの百介です。
ヒロインはほのぼのしてますが、百介は悶々してます(笑)
ほのぼのって難しいですよ・・・(土下座)