満開の桜の木の下で、貴方に





酔う。









酔い桜 紅色染まりて












「綺麗ですねぇーー」





は嬉しそうに桜の木を眺めた。




突然夜中に見せたいものがある、と言って連れ出されたのはついさっき。

市街から少し離れただけなのに辺りは一面の木。

は自分が何処にいるのかも分からず、ただ又市に付いて行くしかなかった。







握られた手に込められた熱を感じる。







「着きましたぜ」





二人の目の前には大きな山桜の木の一本。

通常の桜よりも紅色の薄い桜は堂々とした風格でそびえ立っている。

そして何故かその木の下には赤い敷物と、酒の用意がされていた。








「これはーー?」

「おぎんに用意させたんで。あの女にしちゃあ気が利いてらァ」


御銚子の横に置いてある茶菓子を見て、又市は笑った。

お馴染み京極亭の菓子だが、の好きな物ばかり揃えてある。




「花より団子・・・ですか?」




敷物の上に腰を下ろしてはくすりと笑った。

下から見上げると、空が全て桃色に覆われてしまったかのような錯覚さえ覚える。



「いや、奴は――――花より色気って奴でさァ」


の肩を引き寄せて耳元で囁く。

それは風のように身体を突き抜け、繋がれたままの手の体温を更に上げた。




「早くしねェと、奴より先に花に喰われちまう」



の髪に絡んだ花弁を取って、それを御銚子の中に浮かべた。

それをぐっと飲み干すと、自ら酒を注ぎに渡す。




さんもお飲みなっちゃあどうです」

「いえ、私は―――」

「あんたが飲めねェのは百も承知。けれどこんないい夜だ。
酒に酔うのも桜に酔うのも悪かねェ」




そうしてまた酒を口に含むと、の肩を引き寄せた。

顎に手を添えて、唇を重ねる。

舌をの口内へ差し入れてやれば、又市からへ酒が流れ込む。





「ま、又市さん―――」




苦しそうな声に又市は唇を離した。

飲みきれず、顎に伝った酒を手で拭いそのままを抱きしめる。



「ついでに奴にも酔って下せェ―――」





の顔が真っ赤に染まる。

いつまで経っても初々しいその様を眺めながら「可愛いお人だ」と呟いた。

茶菓子の一つを取ると、それをまた口に含む。




「今度はあんたの好きな桜饅頭だ。お一つどうです」





又市に抱きしめられたまま、顔を胸に埋めているが顔を上げた。

半分だけ口に入れて、残りの半分をに差し出す。

は何か言おうとしたものの、あまりに機嫌の良い又市に逆らう事も出来ず、おずおずと口を開いた。

小鳥が餌を啄ばむように小さく噛り付く。




「美味しいですかい?」

「・・・・はい・・・・」







その言葉に又市は珍しく微笑むと、再び唇を寄せた。

同じ味のする唇をゆっくりと味わう。

二人の間を桜の花弁が降り続けている。

はくらくらと眩暈を感じた。






「どうしやした?」






又市の吐息をすぐ傍に感じて、はぶるりと身震いをした。

桜が目の前を舞う。紅色に染まる。




「ああ、やっぱり酔っちまいましたか。酒か、桜か、それとも――――」





確信的な笑みを漏らす又市。

ああ、見たことがある。この表情は小股潜りの――――・・・・





「貴方に」





がそう言ったのと同時に、視界が反転した。

唇を重ね手が胸元を伝い、帯が解かれる。

の上に覆い被さった又市はやはり嗤っていた。





「ああ、すいやせん」




解かれた帯の隙間から熱い手が差し込まれる。




「どうやら奴も酔っちまったみたいでさァ―――」







「無論あんたに」









見えたのは紅色がそれとも小股潜りの妖艶な笑みか――――







そして今夜もまた貴方に騙される。



















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全て計算付くの又市。買収されたおぎん。知ってて知らぬふりのヒロイン。
理想の又市。つか甘すぎ。
25000HITリク冴原桜華様に捧ぐ。精一杯裏的なつもり・・(土下座)