リィィ―――ン・・・・・






鳥も鳴かぬ丑三つ時に影が一つ。

月の無い夜にそれはくっきりと浮かび上がり、ゆらゆらと揺れる。



白装束に行者包みの男が一人。



さる屋敷の前でその姿は掻き消えた。






光潰サセ男ハ嗤フ











まるで全ての者が眠りについてしまったかのような永久の闇夜。

ただ一つの蝋燭の火を見つめ、はそれが聞こえるのを待っていた。











リィィ―――ン・・・・・









やがて待ち望んだ音が鼓膜に響く。

鈴の音とは言い難い何処か不思議な音色。

それが合図。





固く閉じられた自室の窓を静かに開けると、その間にするりと一人の男が滑り込んだ。






「お邪魔致しやす」





そう言うとぺこりと頭を下げる。

何度止めてくれと言っても、女の寝所に上がり込む後ろめたさか―――それとも単に律儀なだけか。

その仕草に苦笑すると灯りを二つに増やした。





「いらっしゃいまし、又市さん」















二人の逢瀬は何時から始まったのか、と言えばそれがよくわからない。

屋敷に治平と二人、上がり込んだ時にはもうその女に惚れていて。


一目惚れたァ、柄にも無ェ、と。


想いを自覚した時にはもう遅かった。






闇夜に生きる小悪党が、堅気の娘に焦がれるなんざァ―――







そうは言っては見たものの、の姿を見りゃァ餓鬼みてェに胸が高鳴る。







ただ、偶然だったのか、はたまたなんの巡り合せか。

も同じように又市に惚れていた、と聞いたのはつい最近の話だ。








「又市さん?どうしたんですか?」

「いや、他愛も無ェ事でやんすよ」

「そうですか?」





そう言って差し出された茶を一口含んで、の身体を引き寄せる。

昔の事を懐かしむ。まるで爺ィみてェじゃねェかと一人嗤う。

指咥えて後姿眺めていた頃とは違う。


愛しいお人がすぐ傍に居る。





突然の行為に驚いたのか、足元に置かれた茶飲みがガタン、と倒れる。

倒れた茶飲みの中身が僅かにの足先に掛かった。

中身が冷茶で火傷こそ負わなかったものの、その冷たさに又市の腕の中では身震いをする。



「こりゃ、すいやせん」



その様子を見て、又市は悪戯を思いついたかのように口端を吊り上げた。

を腕の中から解放すると、又市は身を屈め彼女の指先をぺろりと舐める。



「ま、又市さん!何を―――」



床に這い蹲るようにしての指を舐める又市。

指の間を舌先が伝い、いやらしく唾液を纏う。




「やぁ、ん、又市さん・・・・」



その行為が性的行為の意を含んでいる事をすぐには気付いた。

気付いたが、逃れる事が出来ない。




やがてその舌は指先から太腿へと段々と上がって行き、内股に辿り着く。

抗う事も迎え入れる事も出来ずに、はただ恐悦の声を上げた。






「逃がしゃしやせんよ」




耳元で男の低い声が響く。




「逃がしゃしねェ」







男が嗤う。






身が竦んだ。恐怖ではない。この男が愛しいのだ、どうしようもなく。


「又市さん・・・」


どうする事も出来ずはただ又市に身を預けた。
















「ざまあねぇな」




全てが済んだ後、又市は横で眠る愛しい女の頬に手を触れた。

此処に確かに女はいる。なのに。




「ただ、放したくねェんで」




闇に生きる者と、光の中で真っ当に生きる者。

いつか離れなければならないことは、十二分に解っている。

けれどそれは出来ぬ相談。

こうも愛しい女をどうして手放す事が出来ようか。





さん。奴は―――・・・」







終わりまで言わず、言葉は闇に消えた。

もうすぐ夜が明ける。それは闇に生きる者とっては浴びてはならぬ光。

















リィィ―――ン・・・・・











その音が掻き失せる頃、男の姿は露と消えていて。

女の首筋に残った朱色の華だけが証となって残っていた。
















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このサイト、何処まで書いていいものか悩みました。
最初から15禁って事になってますが18禁裏作って請求制するか、
15禁のままぬるい表現(笑)のままいくかどちらがいいのか・・・
悩みます。前の話のシリーズ。