「どうして此処にいるの」 「どうして木場さんといるんだ」 重なった声に周囲は顔を合わせた。 「なんだ、手前ェら。知り合いか」 「いやあ、益田さんも隅におけませんねぇ」 黙ったまま立ちすくむ二人に木場と和寅はそれぞれ声を掛けた。 だが、どうにも二人は反応しない。 二人見つめ合って――――いや、睨み合っている。 「説明してよ」 「説明しろよ」 またも声が重なる。 「これって修羅場ですかねぇ?」と和寅が榎木津に耳打ちする。 だが榎木津は二人の顔を交互に見つめたままだった。 「おい、なんだか分からねぇが行くぞ。こちとら仕事なんだ」 木場はの頭を軽く叩くと、は我に返ったように木場を見た。 もう一度行くぞ、と言えば渋々と言った感じで頷く。 腕に絡んで手はそのままに二人は歩き出そうと足を踏み出した。 「おい、この馬鹿木場修!!」 が、それはまたも榎木津によって遮られる。 眉を吊り上げ腕を組んだその様は付き合いが長い者なら榎木津が何か面倒を興しそうだと直感する。 「なんだ、馬鹿榎」 「お前に馬鹿と言われる筋合いは毛先程もない!この鈍感でか豆腐! いいからお前は僕と飲みに行くぞ!バカオロカ、お前はさっさとその娘を連れて行け!」 「は、はい!?」 「何言ってんだ手前ェ!!俺らは仕事中なんだよ!!」 やはり奇想天外、榎木津の思考回路は誰にも読めない。 こうなっては彼の独断場である。 「お前の仕事など知った事か!いいから行け、益山!!」 「あ、ありがとうございます!」 しばし戸惑いの表情で木場と榎木津を見ていた益田は一礼して、の手を引いて走り出した。 木場の罵声との叫びが聞こえるか、益田は振り向かない。 周囲もその様子にどよめき立った。 はたから見ればヤクザから素人男が女を奪って逃げた、まるで三流小説のようである。 「・・・・・説明しろよ、礼二郎」 二人の姿が完全に見えなくなってから、木場は溜息を付いて頭を掻いた。 どうせこの友人の事である。二人の間にある何かを見たのだ。 木場には分かりようもない、何かを。 「まずは酒だ!話はそれからだ!行くぞ下僕共!」 愉快そうに笑うと榎木津は酒場に向かって歩き出した。 木場と和寅もそれに続く。 飲み初めて半刻も経つと、木場は二人の事も仕事の事ももうすっかり忘れていた。 人の気の無い場所まで走り続けてやっと益田はの手を放した。 榎木津に言われて勢いでここまで来たものの、これからどうすればいいのか。 いや、どうすればいいものか分かっているがそれを実行する勇気は無い。 己の不甲斐無さに榎木津の罵声が聞こえるような気がした。 「・・・・・私、仕事中だったんだけど」 不機嫌そうに背後から声が聞こえた。 この声を聞くのは随分と久しぶりだと思う。 相談もせずに辞職してしまったことを怒っているのだろうか。 「仕事ってそんな派手な服着て、木場さんにべったりしている事がの仕事なの」 すまない、と思っているのに口から出るのは気持ちとは全く別の言葉。 苛々する。その理由は分かってる。 木場に対するただの嫉妬だ。 「これには色々あるのよ。民間人にはお話出来ないような理由がね!!」 棘の含む言い方にやはり怒っているのだと思う。 言えなかったのは自分の力なさと情けなさを彼女に見せたくなかったから。 「そんな口紅、似合わないよ」 益田は右手の親指での口紅を拭い去った。 不快な赤が指に付く。 その赤に顔を顰め、を抱き寄せ唇を重ねた。 「なっ・・・!!」 くちゅ、と音がして益田はの口元を舐めた。 そのまま舌を口内に。抱き寄せた腰が微かに震えている。 「不味いね」 一言そう言って唇を離す。 「な・・・何すんのよ!!」 今だ腰に回る手をどうにかしようとが腕の中で暴れる。 けれど離すつもりはない。 そう、ずっと昔から。 足りなかったのは、境界線を踏み越える勇気。 「って俺の事好きでしょ」 「はっ??」 「隠しても無駄。俺もの事好きだし」 「へ?」 「そろそろお互い素直になろうよ。そんなに若くないんだし」 思い切り彼女を抱きしめて耳元でそっと囁く。 「愛してるよ」 真っ赤になって震えるに、泣いてるのかと顔を覗き込んだら殴られた。 「若くないは余計よ!!」 怒った顔は昔と変わらなくて。 痛む頭を擦りながら、僕って榎木津さん達のおかげで強くなったよなぁ、と。 笑いながらまた彼女を抱きしめた。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 一万HITリク益田夢です。また長くてだらだらと・・・ こんなものでよければお受け取り下さいませ、松村様。 色々と書き足りなかった部分がありますので、そのうち後日談を書きたいと思います。 益田君の敬語以外の口調がよくわからなくて・・・すいません;; |