「狛村隊長〜〜〜〜〜!!!!!!」










君に願うこと
















その日檜佐木修兵は東仙のお供で七番隊を訪れていた。

平和主義を胸とする東仙と狛村は仲が良く、互いに詰め所を行き来する仲である。

二人が静かに団欒する仲―――各隊副隊長二人は従者らしくその横で黙って立っている。

それは苦痛ではなく、むしろ静寂が心地良い修兵の好む時間でもあった。






ところが、その静寂と二人の団欒を壊す声が七番隊詰め所に響き渡ったのは午後三時。

良い子悪い子黙るおやつの時間である。





「狛村隊長〜〜〜〜〜!!!」





少女のモノらしくソプラノの声は廊下から真っ直ぐこちらへ向かってくる。

見れば射場は困ったように笑みを浮かべていた。



そして、その声の持ち主は事もあろうに隊長室にノックもしないまま勢い良く扉を開けたのである。






「隊長、買えましたよ!!幸●堂の桜まんじゅう!!」






想像した通り、声の持ち主は可愛らしい少女で戦利品と思われる桜まんじゅうを掲げて笑顔で部屋に飛び込んできた。

通常なら隊長室に平隊員が挨拶もノックも無しに入ってくるなど考えられない事である。




「こりゃ、!!東仙隊長がお見えだ!失礼じゃろう!!」



射場が苦笑しつつも、彼女を一喝する。

俺は面を食らってその状況を眺めていた。




「え、あ、失礼しました!!」



慌てて頭を下げる彼女に東仙隊長も苦笑する。

隣にいた狛村隊長はのっそり立ち上がると、彼女の元へ歩み寄った。



怒るのだろうか・・・?



興味深く狛村隊長の動作を観察するが、どうやらその気配はなさそうだ。

彼女の元まで来ると、狛村隊長は頭を下げたままの彼女の頭を右手でそっと撫でた。

それに反応して彼女も顔を上げる。





「来客中失礼しました!」



先ほどとは打って変わって礼儀正しい彼女に射場さんは笑っていた。

狛村隊長は緩慢な動きで首を横に振り、もう一度彼女の頭を撫でた。

彼女は少し照れたように笑う。




「ではさっそく賞味するとしよう。、茶を」

「はい!只今!」



バタバタと入った時と同じように出て行く彼女はなんだか小動物のようだ。

雛森と同じくらい死神には見えない。









それに少し、意外だ。

狛村隊長が東仙隊長と同じく穏やかな人柄である事は実はあまり知られていない。

特に女性隊員など体躯を見ただけで、怯んでしまうのだから話にならない。

総隊長、射場さんと東仙隊長、そして俺以外でまともに人と話している所を俺は初めて見たのかもしれなかった。




おそらく東仙隊長も俺と同じ事を考えたのだろう。

彼女が出て行った先を見つめ、口を開いた。




「狛村、彼女は?」

「・・・我が隊の八番席だ」

「そう。仲が良いようだね」

「否定はせぬが・・・・」






語尾を濁す。

どうやら狛村隊長も彼女の存在には色々と思うところがあるようだ。





はよう狛村隊長に懐いとりますけん」

「そうか。それはいいことだね」



狛村隊長に代わって射場さんが答える。

東仙隊長はそれを聞いて嬉しそうに笑っていた。





「懐いて・・・・おるか?」

「少なくとも僕にはそう見えたけどね」






おそらく人付き合いが苦手だろう狛村隊長は逆にこちらに質問をした。

東仙隊長はくすりと笑いながら俺の方を見る。






「修兵にはどう見えた?」

「あ、はい!とても懐いているように見えましたが」






いきなり矛先を向けられて慌てたが、その言葉に嘘はなかった。

狛村隊長にあんな風に接する人間は二人といないだろう。







「失礼します!」







そこに今度はきちんとノックをした彼女がお盆を片手に入室してきた。

中央のテーブルにお茶とおそらく先ほど購入した桜まんじゅうらしきものが運ばれる。

四隅にそれぞれ置かれたのは四人分。


「どうぞ」

「ありがとう」


東仙隊長は彼女にそう言うと、さっそく茶菓子を一口含んだ。

狛村隊長もそれを見て、茶菓子に手をつける。




「美味しいよ。修兵も頂きなさい」

「はい、ありがとうございます」

「射場副隊長もどうぞ」

「おお、すまんな




俺は狛村隊長とに一礼すると、促されるまま茶菓子を口にした。

確かに美味い。


横で見れば、狛村隊長は既に二つ目を口にしている。

好きなのか・・・・・?









「はい!」

「主の分はどうした?」

「ああ、ええと」

「無いのか?」

「いえ、また買ってきますので」

「・・・・・・・・」






どうやら俺達の為に彼女の分が無くなってしまったらしい。

既に全て食べ終わってしまった俺達は二人の会話を見守るしかない。





、明日は七夕だ」

「はい?」

「明日は主の好きな物を食べるが良い。わしが面倒見る」

「い、いいんですか!?」

「良い」

「ありがとうございます!!」






遠慮する素振りもなく、彼女は嬉しそうに狛村隊長の首に抱きつく。

驚いている俺と東仙隊長に一礼し、彼女はご機嫌で部屋を退室した。





「射場さん・・・・」

「なんじゃ?」

「あのお二人はどういう関係なんですか?」

「どうって見ての通りじゃのぅ・・・・」

「はぁ・・・・」



見て通りって事は上司以上恋人未満って事だろうか。

あの狛村隊長相手に臆する事無く、逆に抱きつくなど到底有り得ない。




俺の驚きとはよそに東仙隊長は





「君が楽しいなら僕も嬉しいよ」



と穏やかに笑い



「・・・・・・・・・」




狛村隊長をからかっていた。












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七夕編は明日以降。間に合うかな(汗)
射場さんの言葉遣いがわからん。