姑獲鳥の夏 魍魎の匣 狂骨の骨 
鉄鼠の檻 絡新婦の理 塗仏の宴


姑獲鳥の夏


薔薇と十字の祝福のあらんことを―――



初回にていきなり関口の後ろ暗い過去が明らかになる『姑獲鳥の夏』
第一弾だけに非常に入り口は入りやすかったですが、一度京極ワールドに入ったら出るの大変そうです。しばらく出るつもりはないですが(笑)
登場キャラは中禅寺・関口・榎木津・木場・和寅・敦子・(青木)。
振り返ってみると中禅寺が一番陰陽師らしい事をしたのはこれで最初で最後だったんじゃないかと。 後の巻は全て基本的には別の人間が情報を持ち寄ってそれを元に中禅寺が謎を解いてますからね。

ミステリらしく最初は密室の謎。しかしそこには中禅寺曰く「不思議なことなどなにひとつないのだよ」の言葉通り、あるべきものがないのなら何処かに出口があるか・その場にまだあるかどちらかだ、という物質論の基本を突いてきましたね。
ていうか榎さんが最初に警察に通報していれば事件はすぐに終ったんじゃないか、というのはタブーですか?(笑)
関口にも藤牧が見えなかった理由が・・実はあまり納得してません。

涼子は最期なんて言ったんでしょう。私的には関口への感謝の言葉だといいなぁと思ってるのですが。
本当に可哀相だったのは藤牧じゃないかと。女房に浮気されてた時点・いや、性的不能者になった時点で狂ってたのか。

一番気になるのは関口は犯したのか犯されたのか
多分後者・・・だよね・・・?京関的には(ぇ)
だからこそその後壊れちゃったんだろうなぁ・・・・
魍魎の匣


一日も早い『科学の再婚』の成就を願う多くの輩に捧ぐ―――



ミステリ的に一番面白かったのは間違いなくこの作品です。
最後の最後まで全く予想も予測も出来ない展開に終始驚かされっぱなしでした。

登場キャラ 京極堂・関口・木場・榎木津・鳥口・増岡・青木・木下・里村・敦子

人が誰でも持ち得る『狂気』という名の妖怪。それに魅入られた被害者達。
それをカ垣間見てしまった関口・木場・榎木津。魍魎の正体。
姑獲鳥を読んだ後すぐに読んで圧倒されました。さすがです京極先生。

加菜子と頼子ペアはすごく好きです。というか百合??(笑)
加菜子の喋り方や仕草は自分を強く見せる為のものであったともっと早く頼子が気付けば頼子は間違いを犯さなかったでしょうに。というか動悸がにきびってどうよ。神聖化するあまり耐えられなかったんでしょうね。例えば雨宮が同じシチュエーションで加菜子のにきびを見たとしたらどうしていたんだろうと思うと・・・・うーーん?こちらは神聖化ではなく愛情だから殺しはしなかったでしょうか。
けれど頼子も雨宮も加菜子に尋常ならざる程の情を抱いてしまっていた点では似通っているんでしょうね。頼子の場合は依存しきってましたし。
関係ないけど加菜子みたいな喋り方の女の子好きです。実際いたら浮きまくり・・・事実クラスでも浮いていたようですが。
「君は私の、私は君の生まれ変わりなんだ」
お互いに辛い状況にあり、縋るものを探していた二人。その結論としてこの台詞が出たのでしょうが・・・理屈と心情はわかっても納得は出来ません。
誰が悪いのかと問われればやはり二人を取り巻く環境と社会が悪いとしか言い様がないでしょう。二人とも社会の犠牲者。
互いに縋りつくだけで共に手を取り合おうとしなかったのが二人の失敗かと。縋っていても自分の弱みは見せてなかったけですからね。互いに縋り合って結局溺れてしまった・・・・切ない。

美馬坂教授
この人の名前打つのに「うつくしいうまのさか」と打たなければならないこちらの苦労を察して欲しい(辞書登録しろ)変態教授。
二巻目にして京極堂の過去がちょびーーっとだけ露見。しかし理系だったにも関わらず京極堂も関口も榎木津も全く今の仕事に生かされてないなぁ(笑)
例えどんな姿でも生きていて欲しいと思って加菜子をあんな姿にした親心は正直理解不能。 お金さえあれば生かせてあげられるという現実が本当に残酷ですね。
この人の最期は自業自得・・・・なんでしょうか、やっぱり。

久保竣公
っていうか貴方関口さん大好きでしょう!?そうでしょう?そうなんでしょう??
最初に会った時にもう会いたがってたって事は作品読んで気に入ってたってことですよね???辛口批評は好きな子ほど苛めたい心理だったんですよね?
根本的な所で久保と関口は同じなのだと思います。何処かと聞かれても困りますが。何処かで関口さんにSOSを送っていたのではないかと今になって思います。
この人も自分の弱みを晒す事も出来ず苦しんだ人間の一人なのかと。なんだか作家は皆情緒不安定な人間みたいな印象を受けますね(笑)
「みっしりと匣の中に詰めたい」一番狂気に魅入られていたのは間違いなくこの人なんでしょうが・・・
出来ることならもっと関口さんに絡んでから死んで欲しかったです(ぇ)この人の最期が一番強烈に印象に残ってます。

それにしても木場さん。あなた本当に女性との絡みが多い人ですね。女の為にあれだけ暴走できる男なんてそうそういないですよ!
やはり男前度ナンバーワン!!カッコイイぞ、木場さん!!だけど女優に憧れてなんてちょっと単純すぎる(笑)

雨宮の結末
殺人犯・・・ですよね、この人???多分美馬坂教授の最期も久保の事も何も知らないでさっさと一人彼岸へ行っちゃったんだろうなぁ。
もう干物のようになってしまった加菜子でも彼の目には美しいまま写っているんでしょうね。愛って怖い。
「人を辞めてしまえばいいのさ」
身の蓋もない京極堂の発言。それで久保が羨ましくなってしまった関口。ちゃんと関口さん捕まえておいて下さいよ京極堂!!じゃないとフラフラ彼岸行っちゃうから!!
読み返してみて、あ、これが伊佐間初登場だ!と再認識。
釣れなかったんだ・・・・可愛いなぁ。へんてこな土産をいっぱい買ってくる辺りが伊佐間っぽいですね。
一体京極堂には何をあげたんだろう・・・・河童の逆立ちしたような奴私も欲しいです!!



狂骨の骨


『水晶の如き混沌の海』で遊ぶには『必然の浮輪』が必要で―――



伊佐間主役!!
狂骨は私が伊佐間に惚れた記念すべき回です。ビバ!伊佐間!!
このほのぼの加減がたまりません〜〜〜vvv一緒に釣りに行きたい!!単行本の作品紹介で伊佐間の職業が遊民になっているのがウケます。なんだ遊民って。
というわけで伊佐間萌えが先立って、ミステリ的にはあまり印象に残っていない作品です(オイ) というのは冗談で『魍魎の匣』に比べてインパクトは少なかったです。
なんだか複雑ですしね。何度も読み返した作品ではあります。
立川流に関しては高橋克彦氏の『南朝迷路』を読んでいてかなり予備知識があったのでその辺の話はすごく楽しめました。どうやら高橋先生と京極先生では立川流に関して考え方が同義なようです。

一柳朱美
羨ましいぞ、コン畜生!!伊佐間の介抱しやがって!!が私の第一印象(笑)
朱美さんは塗り仏でも活躍しますが、こういう強い女の人は好きです。
特に○○に説教しちゃう辺り(塗仏ネタバレにつき伏字)
この人もまぁ陰惨な過去を持っているわけですが強く生きようとする姿勢と最後の「お前なんかだいっ嫌いだ!」の発言で一気に朱美さんが好きになりました。
そしてもう一人の朱美さんをよく許せたなぁ・・と。私なら許せませんが。どうなんでしょう。
伊佐間を見た瞬間、人柄を見抜いてしまう眼力も大したものです。この眼力が塗仏でも生かされるわけですね!!

降旗弘
下の名前ひろむだったんですね・・・これ書くために読み直して初めて気付きました(笑)
この時点ではまだ単なるへタレですね。関口さんと大いにキャラが被ってますが、どうにも私は降旗×白丘でありまして・・・・(ニヤ)
糞真面目で損を見るタイプですね。フロイトにとりつかれるたって度が過ぎてますし。
幼い時に見た立川流の儀式がトラウマになり、幼い木場修の不用意な発言で(笑)悪夢を見続けた可哀相な人。
この人も塗仏でちょびっと登場するわけですが・・・・・教会にずっといて欲しかったなぁ(降白だから/笑)神父になりゃ良かったのに(ボソ)


一つの髑髏を巡る人間模様。凄まじいです。
立川流の本尊の作り方は大体あんな形で合ってますが、確かに実際は作れないだろうね・・・・ってか無理無理!!死んじゃうよ!!
京極堂の解釈になるほどね!と思いました。でもあの方法じゃ立川流の本当の解釈に気付ける人間なんて早々いないよね。
朱美さんの最後の「お前なんかだいっ嫌いだ!!」の台詞が大好きです。
その前の伊佐間と鍋の約束は戴けませんが(後旦那に内緒って奴)
まぁ塗仏じゃ絡まなかったから(正確には伊佐間と絡まなかったから)許しましょう(←何様;)
もっとマトモなコメントしたいんですが、伊佐間・伊佐間でこれ以上は無理です(笑)


鉄鼠の檻


老賊魔魅に入り、人天を悩乱して了る時なしとか―――


絡新婦の理


せをはやみ岩にせかるる瀧川の、
思ふ男は――おまへならでは。



塗仏の宴 宴の仕度・始末


鬼神の徳たるや盛なるかな。
視れども見えず、聴けども聞けず―――。




関口が逮捕されると噂されていたこの作品。一体どうなるものかと思いドキドキしながら
読みました。完読して納得。今までの話は全てここに繋がっていたんですね
何故絡新婦で関口が最後しか出てこなかったのかやっと納得。

ミステリ的に一番面白かったのは間違いなく『狂骨の骨』ですが、妖怪シリーズというカテゴリーで一番萌えるのは間違いなくこの『塗仏の宴』です。
なんたって彼らの友情の素晴らしい事!(笑)特に木場修と榎さんの喧嘩シーン。
もう京極一味総出でしたね。超豪華。ただ私的にはやはり伊佐間の出番が後半たった数ページなのと京極一味の中に今川が入ってない!事でしょうか。
まぁ今川は京極一味というよりは伊佐間と一緒で榎さんの部下繋がりですからね・・・。
振旗ちゃんの近況にも驚きました。そんな甲斐性あったんですね。つか卑屈具合といい、自分を卑下する辺りかなり関口先生に似通っちゃってますが・・・?白丘神父と痴話喧嘩でもしましたか(笑)

そして今回のキィポイント
敦っちゃん逆ハー説
青木・鳥口・益田が敦っちゃんに憧れている事が今更ながら判明。
しかし鳥口は敦子の存在は神聖なもので女性というカテゴリーではなく人間として尊敬している(無論師匠が恐いのもある)、と(多分鉄檻辺り)で発言。つか吊り合わないと既に諦めている節がある。(というか遊びに通う女性がいる事が判明)
益田も憧れてはいるが、今回に限っては自分の目の前で攫われた事に対して動揺しているのであって、恋愛感情までは発展していない。
一方青木は敦っちゃんが書いたというだけで興味の無い雑誌を小まめにチェックし、敦子の姿を下田で見つけるなり安堵し、その敦子の様子がオカシイことも看破。
解決編では中禅寺自ら青木に「君の役目だろう」と敦子を託している。軍配は青木にありか。これからの動向に注目。つか他の連中もう少し頑張れ!(特に鳥ちゃん)

多々良先生の登場
何度も名前が出てきて一体何時出てくんだと思っていたら、やっと!やっと出てきましたね!!
名前だけは絡新婦で出てきましたが。なんだかこれまた小太りな人・福与かな叔父様らしいですが。
妖怪研究家らしく対等に京極堂と渡り合う様はすごい。が、やや京極堂に頼っている節がある所を見ると、やはり京極堂の方が一枚上手か。
始終妖怪のことばかり考えている為、周りが見えないという困ったちゃん。
織作茜もこれには苦戦。やはりこの人も伊佐間・今川同様ほけっとした叔父様。
でも多々良先生主役の『今昔続百鬼――雲』は是非読みたい。

京極堂、覚悟を決める
広告ビラの台詞ですが、まだ前作とか読んでない段階からこれ見てかなり塗仏が気になってました。 なんたって京極堂の事件ですから!それにしても最後の最後まで関口先生はとばっちりでしたね。
でもきっとそんな事すら気付いてないに違いない。と、いうか釈放される辺りの描写がまるでなかったのが気になります。
そんな事全く気にしていないかのように最後京極一味はほのぼのと川べりに座ってますし。榎さんの隣に寝そべった京極堂がかなり可愛かったです。
というか今回珍しく妖怪の正体が解かりませんでしたね。塗仏が一体なんだったのか。非常に気になります。『今昔続百鬼――雲』で明らかになるのでしょうか?

さて名ゼリフ集。
行方不明になったはずの木場の意外な登場・榎木津との喧嘩のシーン
「俺はな、餓鬼の頃から常々手前のその取り澄ました顔をボコボコにしてやりてぇと思ってたんだよ」
「それはこっちの台詞だ四畳半野郎。僕もその四角な顔を上流から下流に流れ着いた礫岩にみたいに四隅削ってみたかったのだ!」
鳥口の心配を余所にこの会話は日常茶飯事で特に敵を欺く為に芝居をしていた訳ではなかった事が後に判明。
というか益田の助けに入った川新が男前過ぎる!ハゲの巨漢!萌え!!再登場をありがとう、京極先生!!京極が呼び出したにも関わらず、事件にはあまり首を突っ込むつもりはなかったらしい。何も聞かず助けてくれる辺りが益田とは格が違う(笑)

「上手よねぇ。どうしてあんた女口説かないの」
「物覚えが良いもので――嫌われてしまう」

「あんた――怖い男だよね」
「そんなことはありませんよ」
「あたしだけは口説かないで」
「おや――あなたを落すのは大変そうだ」

よもや京極堂のこんな会話が聞けるとは。ありがとうお潤さん!!
特に「あたしだけは〜〜」の台詞に否定しない京極堂が素敵過ぎる!確かに話術では京極堂には誰も敵うまい。その手を使って千鶴さんも口説いたのだろうか・・・?
日頃何故京極堂にあれほど出来た細君がいるのか不思議に思っている鳥ちゃんと木場修に聞かせてあげたかったです。つか、お潤さんはやっぱり木場修が好きなんだね・・・複雑。

「他人を頼らないにも程があるぞこの本屋」
「あんたこそ―――人の世話を焼く柄じゃないだろう」

一人苦しむ京極堂に事件を見抜いた榎木津が言った言葉。彼らの友情がここに!
青木・鳥口・益田も京極堂の為に動く決意をしたこの辺りの会話が物凄く好きです。
木場修がいなかったのが残念(関口は?)

薔薇十字団

南雲の元へ乗り込んだ鳥口の台詞。
榎木津の下僕らしく、探偵ではない青木と鳥口の事らしい。
この場合益田が入るのかどうか微妙。でもこの脇役?下僕?三人組好きです。

「なら、このゲームは―――無効だ!」
益田の指摘に闘う決意をした京極堂。というかこの人の台詞にビックリマークが付いているのを初めて見た気がするのは気のせいですか?
榎さんってやっぱり京極堂の事わかってんだなぁと思わせる回でもありました。
後で確認した結果堂島との会話でのみ「!」を連発してますね。余程嫌いとみた。
ところで堂島をも知っている「知らないことはない」という京極堂の師匠の明石先生はいつか出てくるのだろうか・・・

「中禅寺。中々善い手下を持っているな」
「残念乍らあれは手下ではない。腐れ縁の友人だ」

木場が騙されたフリをしていて榎さんと京極堂だけがそれを知っていたとわかった時の堂島と京極堂の台詞。
これが関口だったらやっぱり知人だと言ったのだろうか。イマイチ京極堂の持つ知人と友人の境界線がわからない所ではあるが。

塗り仏はとにかく「友情」がテーマだった・・・ように個人的には思います。
何回でも読み返したい作品ですね!



渾沌既に死して一万年、独り太模を抱いて存う―――。