欲しいモンは一つだけ。















特別な日の眠れぬ夜に














「トガー、誕生日に何欲しい?」





それは何気ない親友の、日常の一コマの、何気ないたった一言。

誕生日ってのはなんだか人を特別な気にさせるのか。

それとも気を大きくさせるのか。

親友のなんでもない一言に反応してしまった自分が恨めしい。





「お前」

「・・・・・・・・・はぁああ?」

「は?」







それは全く無意識の回答。

目をひん剥いて驚く黒木以上に俺が驚いていた。

何ふざけたこと言ってんだ、俺は。







「トガ、なんのジョークよ?」

「待て、いい、忘れろ」






慌ててジャンプに目を走らせる。

けどバカはその話題に食いつこうとする。





「なんだよ、俺のことパシらせよーっての?」

「だから忘れろって言ってんだろ」

「あー、あれか?賊学みてぇに一日奴隷やってやろうか」

「いい加減にしろ」



けらけらと笑う黒木にジャンプを投げつける。

痛ェ、と言うものの、笑うのはやめない。






一体何考えてんだ、なんてそんなこと俺が聞きたい。

十月過ぎていい加減肌寒い。

日が暮れるのも早くなって、それでも練習時間は短くなんてならねぇから、当然毎日が筋肉痛。

ダルイ身体引きずってようやく家に着いたのに、黒木がいるおかげでオチオチ寝れもしねぇ。

親父さんがいねぇとかで珍しく早く帰った十文字がいないおかげで二人きり。

ろくに働かない頭がどうにかしちまったのか。







「もういい、帰れ」

「やー、帰らねぇ。泊まってく」

「は?ふざけんな」

「いーじゃん、これ以上歩く気なんねぇし」






そう言って寝転がったのはもちろん俺の蒲団で。

人様の蒲団にどうやったら大の字で寝れるんだお前は。





「あ”−、筋肉痛〜〜〜」

「俺もだ。どけ」

「じゃ、一緒に寝るかー?」





そうやって俺を見上げて無邪気に笑う。

今までだって幾度かそんなことはあった。

その度俺は無表情でお前をあしらう。







けど今までと”今”は違う。







「じゃ、寝てもらおうか」







グラサンとジャンプを放り出して、俺は身体を重力に任せた。

当然蒲団の上に仰向けになった黒木の腹に身体が落ちる。

それは覆い被さるなんてもんじゃなくて、ただのタックル。

ぐえっ、と黒木が呻いた後、プロレスだとでも思ったんだろう、ゲラゲラ笑いながら俺の腕を掴んだ。



だからバカなんだよ、お前は。








「トガー、重いーー」

「生憎、筋肉痛で力が入らねぇんだ」

「マジ、死ぬって」

「一緒に寝てくれるんだろ?」






少しだけ膝と肘に力を入れて身体を起こす。

顔を突きつけたままの格好で、耳元でそう言ってやった。





「うえー、男同士で一つの蒲団かよ」

「嫌ならお前がどけ」

「トガがどかねぇと動けねぇじゃん!」

「じゃ、そのまま寝てろ」



身体を少しだけ右へずらして、抱き枕みてぇに黒木を抱いて蒲団に寝転がる。

黒木はなんとも言えない顔で俺と蒲団の間で視線を彷徨わせていた。





知ったことか。

いつだってお前は、

俺を狂わせる。








「おーい、トガ、マジでこのまま寝るつもりかよ?」

「煩ェ、枕は黙ってろ」

「はぁあああ?いや、だって・・・・」

「今この瞬間、一日奴隷決定。」

「うわっ!マジ!?」







黒木の叫びを無視して目を閉じる。

もじもじと居心地が悪いのか、身体を動かそうとする黒木を戒めるように腕に力を込める。

やがて諦めたのか、眠気に勝てなかったのか、寝息が聞こえてきた。








「救いようのねぇバカだな」








見慣れた寝顔を眺めながら、そっと腕を解く。

どうやったら男に抱かれてるこの状況でそんなバカ面で寝れるのか聞いてみたいもんだ。



考えもしないだろう、親友が自分に恋慕の情を抱いているなんて。








「明日までは奴隷だったな・・・・」










やっぱり誕生日ってのは特別な日らしい。

その期限付きのプレゼントが俺の行動を後押しする。








時計の音と小さな寝息の音を聞きながら、

多分、もう二度と触れらないだろう唇にそっと口付けた。













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戸黒・三兄弟サイト様に限りフリー

ハピバ戸叶さん!これにて三兄弟誕生日ラッシュ・フィナーレですねv
黒木でラブラブ書いたので、珍しく戸→黒の片想いです。
これはこれでいいなぁと思ったり・・・
戸→黒で戸叶さんの切ない片想い・・・どうですか(ドキドキ)